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《 ぜんりんしゃの本棚から 》


最上 一平 著、 渡辺 有一 絵
「山からの伝言」 新日本出版社
蝉林舎の本棚から 4



 まず出版社の内容紹介文を。

 《 どうしたらもっとましな、豊かな暮らしができるのか−−−深い積雪で、冬には陸の孤島になる水口集落。炭焼きと養蚕に頼る貧しい村だ。分校に通う子どもは二十人余り。「白いご飯を食べるため、田んぼを作る」。夢を実現させようと若者たちが動き始めた。水を引き、田を開く――想像を超える重労働だった。夢に挑んだ村人たちの姿を、四季折々に姿を変える美しい自然と共に描く。》

 ストーリーを書くわけには行かないのだが、まず冒頭の溌溂とした「子供の行進」に思わず引き込まれてしまう。そして最後までそのエネルギーに惹きつけられっ放しだ。生活の中で「作る」という意志が育つと、貧しいというのは こんなに豊かなことなのかと あらためて分かる本だ。田んぼを作るという意味だけではない。生活そのものを作り出すという意味でだ。

 この人の作品は 二つの方向、静かなものと この本のような元気なものがあるが、どちらを読んでも いわゆる方言(山形弁)が沢山出てきて、一見難解に思えるだろう。でも これがいわゆる「標準語」だったら ここまで生活が表現されることはない。外国語ではなく、これこそが血のかよった日本語なのだ。この点、あらためて別な とても大切な視点を暗示してくれている。

 それは、方言が単一言語に併呑されて 「便利な国語」が成立してゆくほどに、経済的にも 人々がその生来の土地から剥がされ浮遊して行き(わかりやすく言えば 都会の労働者として)、それこそ「足が地から」剥がされてゆく 歴史の図式だ。

 日々要求される英語学習での うわべの理解と違って、この表現豊かな母語による読書がどれほど子供の成長に資することか。翻訳ものでも、良い本は上等な母語(日本語)で読めということ。



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