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《 ぜんりんしゃの本棚から 》


吉橋 通夫 著、 なかはま さおり 絵
「京のかざぐるま」 日本標準
蝉林舎の本棚から 6



 まず出版社の紹介文を引用する。

 《はじめて自分の手で作りあげたばかりの筆を親方にへしおられ、家をとびだした冬吉と幼なじみのおりんとの出会いと別れを描く「筆」。祇園祭り用の鉾の車に百年の生命を刻みこむ車大工の親方と三吉を描く「さんちき」。幕府軍と長州軍とのいくさで焼土と化した京のまちを、兄をさがして歩く弁吉を描く「夏だいだい」など、激しくゆれ動く幕末の京都を舞台に、けなげにひたむきに生きる子どもたちを描く傑作短篇集。》

 このサイトで紹介している本のなかでは 少々違うタイプの物語だが、7篇それぞれ 強い意志をもって働き 生きる子供を描いた とても良い本だ。普段あまり読み込めない子でも 一気に引き込まれる。真剣な読書へのきっかけになるだろう。大人が読んでも心に残る。

 以上を押えた上で、子供に読ませる立場から見た もう一つの感想を。

 登場する 凛とした主人公たちとは反対に、時代や世間の状況に対峙できず 流されてゆく子も沢山いただろう。この物語の中の人物像はにせものだ というのではないが、日々の労働と生活の中でその軋轢に苦しみ、形を成せないでいる姿にこそ 子供の生きた現実があったのではないか。劇的な場面に隠れて そんな日常が必ずしも読み取れないだけに、「立ち止まり、立ち止まりして」背後の意味を探して行く読書にはなりにくい。さらに言えば、読み物としてはとても良い本だが、読み手である子供が 労働や生活の中での苦しみや哀しみを読み取り、ひいてはそこから (登場人物の意志ではなく)自分の意志を成長させて行くような、そんな糧になるだろうか・・・・。

 ともあれ 印象に残る本なので、 (大人にも)一読をお奨めしたい。




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