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《 ぜんりんしゃの本棚から 》


植松 要作 著、 中島 保彦 絵
「野うさぎ村の戦争」 新日本出版社
蝉林舎の本棚から 7



 いつものような出版社の案内文が見つからない。巻末に 作者の肉声を聞くようで感銘深い「あとがき」があるのだが 長いのでここに載せるわけにはゆかない。

 《蝉林舎の本棚》の中でも とびっきりの名作。幾度も書いて来た「足が地に着いた本」の代表格だ。
 とりたてて文の上手さを感ずるというのではないが、さりげない一文一文にも しっかりした表現の強さが感じられる。読み終わって「あとがき」を見ると、あらためて 作者の来し方から生まれた渾身の力作なのだと納得がゆく。

 戦時中の権力関係の中で 軍に農地を取り上げられたり、学校での対峙があったり、更には 勤労奉仕の重労働ありといった 深刻でスケールの大きな話なのだが、家族を中心に 集団で開墾する開拓農民の様子が活き活きと描かれていて、主人公の子供たちを応援しながら、読むのが楽しくなるほどだ。
 日常の農作業の描写、子供の成長、そして戦争まで 一作の中で構成しあげる筆力は相当なもの。随所に さりげなく書かれている子供の一言や 後半の戦争の分析も鋭い。

 前半を、きちんと「立ち止まり・立ち止まり」して しっかり読み込むほど、後半 も深く理解できるように書かれていて 貴重な読書体験になるだろう。さし絵も上等だ。この人の作品を もっと読みたいのだが、なかなか見つからない。この本も絶版になっていて、再版されない。活字離れということなのだろうか。




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