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《 ぜんりんしゃ カレント コラム 》


NIE雑感


写真は左から、岩波版・偕成社版・ポプラ社版

 NIE という取り組みがある。(NIE=Newspaper In Education、教育に新聞を) 教育現場では 試行錯誤しながらも色々工夫努力されているようだ。
 何年も前のことだが、ある全国紙に 「来週からNIEのページが始まるので 乞うご期待」という案内が載った。はて、どんな企画が始まるのかと 指折り その日を待った。当日、該当するページを開いて驚いた。本物の新聞とは程遠い。活字の大きさ・字体・ふりがなから 漫画風の挿絵まで、すっかり子供向きに編集された紙面だ。「これでは子供新聞ではないか! NIEとは子供新聞のことだったのか!」 少々極端だが これが第一印象だった。 大人が下りてゆくのが教育か? 子供を引き上げるのが教育か?

 上の話とは多少前後するが、ある時 中学3年生のクラスに「ビルマの竪琴」(竹山道雄)を読ませたことがある。みんな静かに読んでいる。少年文庫とはいえ 日常世界とは一段違った深刻な物語なので、どんな様子か 隣室でそっと様子を窺った。ほとんど読めずに、それこそ よだれを垂らして眠ってしまった子もいる。そんな中で、一人 顔を上気させて 授業時間内に一気に読み終えた子がいた。その子は何が違っていたのだろう。
 彼は 中学入学以来、家で お父さんと一緒に新聞を読むのが日課だという。一緒に色々な記事を読みながら、お父さんが その社会的な背景や「裏側」を話してくれるのだそうだ。その家庭の方針にとても感心した。なるほど、記事にはたっぷり中身があるのだから、何の細工をしなくとも この読み合わせはすぐに病みつきになるだろう。「何の細工をしなくとも」とは 「子供向きに紙面改変をしなくとも」ということも含めてだ。まさに本物の紙面を持ち込んでの「NIE」だ。 (ちなみに その子は 首都圏の高校を受験する際、願書の取り寄せから 出願手続きまで 自分一人でさせられたという。)

 大人の本に対して子供の本があるように、新聞にも 大人版・子供版があっても良いだろう。だが 少年文庫は 書き手と読み手の関係をはじめ その目的(や本質)が 新聞とは全然違う。「NIE」について 単なる学習上の資料集めを越えて、マスコミとは・ジャーナリズムとは といった範疇にまで考えを拡げるのは大変だが、かと言って それらが「新聞」の一番の核心であるだけに、上に紹介した 何の衒(てら)いもなく「新聞で我が子を教育する」お父さんの例は、現実的な意味で とても示唆に富んでいた。


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