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《 ぜんりんしゃ サブコラム 》


「合格実績」という謎の数字


 教育問題というのは 何も学校内だけにある訳ではない。そこで お盆休みを利用して 番外のテーマを一つ。
 対象が社会的弱者ということで よく比べられる「お医者さん」と「学習塾」の 一番大きな違いは何だろう。

 その一つは 患者どうしと違って、生徒どうしは競争関係にあるということだ。運転免許試験や書道などの昇段試験は競争ではないが、入学試験は(倍率が1を越えれば)勝ち負けがつく。

 それでは こう訊かれたら何と答えれば良いだろう。「塾教師はお金を貰って誰かを勝たせようとしていることになる。社会的に文脈を拡げれば、裕福な家庭からお金を貰って首尾よく合格させたとしても、経済的に塾に来られない子供に対しては それは不誠実というものではないか。裕福な家の用心棒ではあるまいし、純真な子供に競争を煽(あお)ってお金を稼ぐとは !?」 事実、このように考えているご父母も少なくない。

 それに関連してもう一つ。塾の「合格実績」という言葉は、本当に大人の思慮をもとに使われているだろうか。これを何の注釈も無く チラシに謳(うた)う塾もあるし、入塾相談に来られるご父母の中にさえ 「合格実績は?」と尋ねる人がいる。これらの場合、やはり塾は合格請負(うけおい)商売とみなされている訳だ。もっとも、真剣に子どもの成長を考える人たちには そう簡単に使われることはないだろうが。

 仮に、ある塾の ある高校への合格者が10人いたとする。「合格実績」は10人だ。塾もご父母も 通常は ここまでで思考停止する。・・・・しかし謎解きの第一歩はここから。言ってみれば「不合格実績」だ。もし これが3人だったとすれば、合格率は10÷13で77%、競争倍率は13÷10で1.3倍だ。もしこの年のこの高校の倍率が1.3倍だったとすれば、この塾は 特別何か効果があった訳ではないということになる。(人数が多ければ さらに錯覚もふくらむ。)

 もちろん反論もあろうが、逆に さらに深い論理がある。もし前者10人に対しての「塾の業績」を主張するのであれば、後者3人に対しての「塾の業績」も 同じ熱意をもって準備しなければ 大人の話としては筋が通らないのではなかろうか。相手は子供という弱者なのだから。

 とにかく、素直に考えれば 「合格」とは、頑張って合格した本人の「実績」。大人が横取り(!)しなくてもよいのではないか。・・・若かりし日の自分を思い出せば 簡単にわかること。自分を合格させたのは ほかの誰でもない 自分だったはず。自分を失敗させたのは ほかの誰でもない 自分だったはず。自立しつつある子供に この真剣さ・冷静さを分からせること自体 とても大切なことだ。「君を合格させる(!)のは ほかの誰でもない 君なのだ。君を失敗させる(!)のは ほかの誰でもない 君なのだ。だから頑張れ」 と。

 年々、学校(中学校)が 「早朝から夕方遅くまでの託児所」然としてくる現況を見ていると、学習塾には もっともっと大切な役割があるのではないかと思う。同業者からは いまさら何を言うかと叱責されそうだが、子供という弱者を扱う以上 これは入り口だ。この第一歩をクリアしなければ、塾は現実論に紛れ込むしかない。ここからの いわば「本題」に深く関心がある方は 蝉林舎のホームページもご覧になり、お考えを聞かせて下されば有難い。


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